肉の手帖

人医療と密接に関係。飼料添加物のルールや薬剤耐性菌の問題について。

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飼料添加物の使用ルール

飼料添加物とは、私たちが口にする食品に使われる着色料・甘味料といった食品添加物の飼料(動物用のエサ)版です。飼料の保存性を良くしたり、不足しがちな栄養成分を補完したりする目的で使われます。

飼料や飼料添加物の安全に関して定めた「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律」(以下、飼料安全法)によれば、飼料添加物は次のように定義されます。

この法律において「飼料添加物」とは、飼料の品質の低下の防止その他の農林水産省令で定める用途に供することを目的として飼料に添加、混和、浸潤その他の方法によつて用いられる物で、農林水産大臣が農業資材審議会の意見を聴いて指定するものをいう。
(引用:飼料安全法 第2条 第3項

ただ一方で、抗菌性飼料添加物の使用によって薬剤耐性菌を生み出す恐れが危惧されるなど、さまざまな課題もあります。

あらゆる抗菌薬は、薬剤に耐性を持つ菌を生み出すリスクがあります。そのリスクは薬の使用回数が多いほど高まりますが、少量なら耐性菌を生む確率が低いというわけではありません(ここでいう「薬の使用回数」とは、1回に使う量ではなく、累計の使用回数です)

2017年1月には、食品安全委員会が硫酸コリスチンという飼料添加物について、人医療へ悪影響を及ぼす恐れがあると判断。2018年7月にその使用が全面的に禁止されました(※1)

コリスチンは、人への世界的な感染が確認されており、抗生物質に耐性を持つカルバペネムという菌の最終治療薬(最後の切り札)といわれています(なお今のところ、日本国内では稀にしか検出されていません)
その薬を飼料添加物として“日常的に”使用する=薬剤耐性菌を生み出すリスクを高めるのは、人医療に重大な影響を及ぼすとされ、このような決定が下されました。

今回は、そんな私たちの健康とも密接に絡む飼料添加物についてまとめてみます。

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飼料添加物の用途は、エサの品質低下防止、栄養成分の補給とその有効利用の促進の3つ

まず飼料添加物がどんなものか、改めて押さえておきましょう。
飼料添加物とは、飼料安全法・施行規則の第1条に記されている次の3点を用途とする飼料向けの薬剤です。

一 飼料の品質の低下の防止
二 飼料の栄養成分その他の有効成分の補給
三 飼料が含有している栄養成分の有効な利用の促進
(引用:飼料安全法 施行規則 第1条

3が少しわかりにくいと思われるので、簡単に補足しておきます。

たとえば、牛が体内でタンパク質をつくるとき、材料となるのはアミノ酸です。DNAにある設計図をもとにさまざまな種類のアミノ酸を結合して、必要なタンパク質を合成します。
このとき、材料となるアミノ酸が足りないと合成がうまくいきません。合成に3種類のアミノ酸が必要なのに、そのうち1種類が体内にないと、残りの2種類は摂取したのに使われない=無駄になってしまう、このようなイメージです。

そこで飼料添加物をエサに混ぜて、不足しがちなアミノ酸を補ってあげます。すると合成がうまく進み、無駄に終わってしまうアミノ酸を減らすことができます。これが「栄養成分の有効な利用の促進」です。

このあたりは味の素グループさんのサイトにわかりやすい説明が載っているので、ぜひあわせてご覧ください(下のリンクの「桶の理論」という箇所です)

*味の素グループ環境報告書2010 特集3|味の素グループ
https://www.ajinomoto.com/jp/activity/environment/report/pdf/2010/021-024.pdf

飼料添加物は155種類が認可されている

用途ごとに飼料添加物の種類をまとめると、以下のようになります。全部で155種類あります(2019年3月現在)

用途 類別 種類数
飼料の品質の低下の防止 抗酸化剤 3
防かび剤 3
粘結剤 5
乳化剤 5
調整剤 1
飼料の栄養成分その他の有効成分の補給 アミノ酸等 14
ビタミン 34
ミネラル 38
色素 3
飼料が含有している栄養成分の有効な利用の促進 合成抗菌剤 5
抗生物質 15
着香料 1
呈味料 1
酵素 12
生菌剤 11
有機酸 4

それぞれの類別ごとにどんな飼料添加物が指定されているかは「飼料添加物を定める件」という告示で確認できます(※2)。また農林水産消費安全技術センターのホームページには、こちらを見やすくまとめなおした「飼料添加物一覧」というページがあります(※3)

このうち、防かび剤と合成抗菌剤、抗生物質の3つをあわせて抗菌性飼料添加物と呼びます。これは人間でいう抗菌薬に相当すると思ってください(詳細は後述します)

飼料添加物が承認されるまで

ある薬剤が飼料添加物として認められるには、農林水産省や厚生労働省などの専門機関によって効果や安全性などが認められなければなりません。大まかな流れは下図のとおりです。

飼料添加物の認可の流れ

指定のフローについてより詳しく知りたい方は、以下のリンクをご覧ください。

*飼料添加物の指定の手引き(化学物質編) 第1.9版|農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/siryo/attach/pdf/index-38.pdf

ちなみに、飼料添加物を使ってよい畜産動物は、飼料安全法施行令、その第1条で定められています。牛や豚、山羊、鶏、ミツバチ、ブリやスズキといった特定の魚などが対象です。

飼料添加物の具体的な運用ルールについて(製造・保存・表示・使用)

では、次に具体的な現場の運用ルールに目を移してみましょう。
まず飼料安全法の第3条には、次のような記載があります。

農林水産大臣は、飼料の使用又は飼料添加物を含む飼料の使用が原因となつて、有害畜産物(家畜等の肉、乳その他の食用に供される生産物で人の健康をそこなうおそれがあるものをいう。以下同じ。)が生産され、又は家畜等に被害が生ずることにより畜産物(家畜等に係る生産物をいう。以下同じ。)の生産が阻害されることを防止する見地から、農林水産省令で、飼料若しくは飼料添加物の製造、使用若しくは保存の方法若しくは表示につき基準を定め、又は飼料若しくは飼料添加物の成分につき規格を定めることができる。
(引用:飼料安全法 第3条 第1項

大きく製造・使用・保存・表示の基準と、飼料添加物の成分規格があることがわかります。そして、それぞれの具体的な内容については、主に飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する省令(以下、成分規格省令)の別表第2(以下、別表第2)にまとめられています(※4)

製造における基準

製造に関しては、製造前と製造後でそれぞれルールがあります。

製造前のルールは、製造許可に関するものです。
飼料安全法の第50条・第1項には、製造を希望する事業者は、事業開始の2週間前までに、氏名や飼料添加物を保存する施設の住所などの必要事項を農林水産大臣に届け出なければならないとしています。

この届け出が受理されると、事業者は飼料添加物を製造できるようになります。その後の実務に関する一般的なルールは、先に示した別表第2(飼料添加物一般の製造の方法の基準)にまとめられています。たとえば、製造用原体(飼料添加物の有効成分にあたる物質)のまま添加してはならないなどの決まりがあります。

また2015年には、飼料等の適正製造規範(GMPガイドライン)も守るべきルールとして制定されました。
これまで食品の安全性は、完成品(最終製品)のいくつかを抜き取って検査するやり方でしたが、近年はそれでは不十分だという声が高まり、飼料の準備や製造工程・流通なども含めたフードチェーン全体から監視していく必要があるという考えに変わってきています。その視点から飼料製造のあるべき形をまとめたのが、このガイドラインです(※5)。飼料添加物の製造や飼料に使用する場合においても、このガイドラインに沿うことが求められています。
以上が飼料添加物の製造に関する大まかなルールです。

最後に2点、特定添加物の製造ルールとつくってはいけない飼料添加物について補足しておきます。

1:特定添加物の製造ルール

飼料添加物は、特定添加物とそれ以外の添加物に大きくわかれます。
そして特定添加物の製造については、飼料安全法の第5条で次のように定義されています。

第三条第一項の規定により規格が定められた飼料又は飼料添加物で、その飼料の使用又はその飼料添加物を含む飼料の使用が原因となつて、有害畜産物が生産され、又は家畜等に被害が生ずることにより畜産物の生産が阻害されるおそれが特に多いと認められるものとして政令で定めるもの(以下「特定飼料等」という。)は、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(以下「センター」という。)が農林水産省令で定める方法により行う検定を受け、当該特定飼料等又はその容器若しくは包装に、これに合格したことを示す特別な表示が付されているものでなければ、販売してはならない。
(引用:飼料安全法 第5条 第1項。太字は引用者による)

ここにある政令で定めるもの、つまり特定飼料等(特定添加物)とは、落花生油かすと抗菌性飼料添加物(抗菌性物質製剤)を指します(飼料安全法施行令 第2条)
特定添加物はそれ以外の添加物と違い、事前に農林水産消費安全技術センターの検定を受けて、合格した証を添付しなければ販売できません。ただし例外として、特定添加物を製造するのに必要な所定の技術や設備など(同法 第7条)を有していると農林水産大臣が認めた業者(特定飼料等製造業者)に関しては、検定は必要ありません(同法 第5条 第1項 第1号)

ちなみに、農林水産消費安全技術センターのホームページで、特定飼料等製造業者として登録されている事業者を確認できます。

*特定飼料等製造業者|独立行政法人農林水産消費安全技術センター
http://www.famic.go.jp/ffis/feed/gmp/sub5-1.html

2:つくってはいけない飼料添加物

成分規格省令の別表第2には、次のような記載があります。

別表第1の1の(2)のウの表の同一欄内の2以上の飼料添加物を用いて飼料添加物を製造してはならない。
(引用:成分規格省令 別表第2の3の(2))

ここにある別表第1の表とは、次のようなものです。

作用 該当する飼料添加物
第1欄 抗コクシジウム作用 アンプロリウム・エトパベート、アンプロリウム・エトパベート・スルファキノキサリン、サリノマイシンナトリウム、センデュラマイシンナトリウム、ナイカルバジン、ナラシン、ハロフジノンポリスチレンスルホン酸カルシウム、モネンシンナトリウム、ラサロシドナトリウム
第2欄 駆虫作用 クエン酸モランテル
第3欄 成長促進作用(グラム陽性菌抗菌活性) 亜鉛バシトラシン、アビラマイシン、アルキルトリメチルアンモニウムカルシウムオキシテトラサイクリン、エフロトマイシン、エンラマイシン、クロルテトラサイクリン、ノシヘプタイド、フラボフォスフォリポール、リン酸タイロシン
第4欄 成長促進作用(グラム陰性菌抗菌活性) アルキルトリメチルアンモニウムカルシウムオキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、ビコザマイシン

この表は、抗菌性飼料添加物を有する作用によって4種類にわけています。作用については「効果を及ぼす菌や寄生虫が違う」くらいに捉えてください。

抗菌性飼料添加物とは、病気などの原因菌を殺菌(菌を殺してその数を減らす)あるいは静菌(菌の増殖を抑える)するものです(また牛の成長を促進する効果もあります)。たとえば第3欄の薬剤は、グラム陽性菌という種類の菌を殺菌あるいは静菌する作用を持ちます。ちなみに、この薬剤の効果が及ぶ範囲(菌の種類)のことを抗菌スペクトルといいます。
(なお、静菌作用はあくまで菌の増殖を「抑える」だけで、「数を減らす」ことはありません。ただし動物の体の中であれば、自己免疫によって数が減ります)

先に引用した成分規格省令・別表第2の3の(2)は、同じ欄に属する抗菌性飼料添加物の併用を禁止しています。たとえば、農家が2種類の飼料XとYを混ぜて使う場合、このXとYに同じ欄の違う抗菌性飼料添加物が含まれていてはいけません。

この主な理由としては、薬剤どうしの相互作用により、予期しない効果を発現する可能性があるからです。
ただし、仮にその効果が有害なものであったとしても、解体時に獣医師が検査を行うため、そのお肉を人が口にして健康を害してしまう恐れは非常に低いです。

保存における基準

保存の一般的なルールも、別表第2(飼料添加物一般の保存の方法の基準)にまとめられています。
使用に際しては、飼料添加物の商品ラベルに保存上の注意点が必ず記載されているので、それを守ります。

表示における基準

表示のルールは、まず飼料安全法の第32条で次のように定められています。

農林水産大臣は、飼料の消費者がその購入に際し栄養成分に関する品質を識別することが著しく困難である飼料で、使用上当該品質を識別することが特に必要であるため当該品質に関する表示の適正化を図る必要があるものとして政令で定めるものについて、次に掲げる事項につき表示の基準となるべき事項を定めるものとする。
一 栄養成分量、原料又は材料その他品質につき表示すべき事項
二 表示の方法その他前号に掲げる事項の表示に際して製造業者、輸入業者又は販売業者が遵守すべき事項
(引用:飼料安全法 第32条 第1項。太字は引用者による)

ここにある政令で定めるものとは、大豆油かす、魚粉、フェザーミール、肉骨粉、肉粉及び血粉、そして2種以上の飼料からつくられた飼料などを指します(飼料安全法施行令 第6条)

表示基準の具体的な内容は、別表第2(飼料添加物一般の表示の基準)にまとめられています。その内容を踏まえた表示サンプルが以下になります。

飼料添加物の表示ルール

飼料添加物の使用に際しては、この表示ラベルに記載されている「用いることができる飼料の種類及び量」を守らなければなりません。

使用における基準

使用のルールは、大まかには次のようになっています。

飼料添加物の使用ルール

飼料添加物は「添加可能な飼料」と「添加してよい量」の両方が制限されているもの、前者だけが制限されているもの、どちらも制限されていないものにわかれます。この制限内容に関しては、成分規格省令の別表第1と第2のなかで言及されています(類別ごとに該当する省令を記載してあります)

抗菌性飼料添加物の使用に関するルール

飼料添加物のうち、抗菌性飼料添加物には特に厳しいルールが定められています。
まずすべての添加物において、下表のように使用できる対象飼料や添加量などが決まっています(成分規格省令 別表第1)

抗菌性飼料添加物の使用ルール

表中の「対象飼料」は、同省令で次のように定義されています(1の(1)のウの1)
たとえば一番上にあるサリノマイシンナトリウムは、豚用の飼料と、ほ乳期の牛用の飼料の欄が空欄です。つまり豚とほ乳期の牛の飼料に添加してはいけません。

対象飼料 時期 定義
鶏(ブロイラー除く)用 幼すう用 ふ化後おおむね4週間以内の鶏用飼料
中すう用 ふ化後おおむね4週間を超え10週間以内の鶏用飼料
ブロイラー用 前期用 ふ化後おおむね3週間以内のブロイラー用飼料
後期用 ふ化後おおむね3週間を超え食用として屠殺する前7日までのブロイラー用飼料
豚用 ほ乳期用 体重がおおむね30kg以内の豚用飼料
子豚期用 体重がおおむね30kgを超え70kg以内の豚(種豚育成中(体重がおおむね60kgを超え120kg以内のものに限る。以下同じ)のものを除く)用飼料
牛用 ほ乳期用 生後おおむね3月以内の牛用飼料(モネンシンナトリウムを含むものにあつては、主として離乳後の牛の育成の用に供する配合飼料であつて、脱脂粉乳を主原料とするもの以外のものに限る)
幼齢期用 生後おおむね3月を超え6月以内の牛用飼料
肥育期用 生後おおむね6月を超えた肥育牛(搾乳中のものを除く)用飼料

これ以外にも、抗菌性飼料添加物には大まかに次のようなルールがあります。

農林水産省に指定されていない抗菌性飼料添加物の使用は禁止 成分規格省令 別表第1の1の(1)のア
同一欄(先の第1欄から第4欄のこと)に属するものを併用することは禁止 成分規格省令 別表第1の1の(2)のウ
と畜前7日間の投与は禁止 成分規格省令 別表第1の1の(3)のイの(イ)
と畜前7日間の投与は禁止とラベルに表示しなければならない 成分規格省令 別表第1の1の(5)のイの(キ)
飼料添加物の対象家畜などをラベルに表示しなければならない 成分規格省令 別表第1の1の(5)のイの(オ)
特定の抗菌性飼料添加物を含む飼料については、決められた使用上の注意を表示しなければならない 成分規格省令 別表第1の1の(5)のイの(ク)〜(サ)
飼料製造管理者を置かなければならない 飼料安全法 第3条 第1項、同法 第25条 第1項

以上、ざっくりですが各種ルールの概要でした。
このように飼料添加物の製造や使用に関しては、牛たちや私たちの健康を守るために厳しい制限が設けられています。

ただ、農林水産省は2018年8月に通知した「飼料の安全確保の徹底について」という注意喚起のなかで、「現在においても飼料事故の発生頻度は低下しない」状況を危惧しています(※6)。畜産業界はより一層、法令遵守を徹底していかなければなりません。

補足

農林水産消費安全技術センターのホームページには、飼料関係の法令などの一覧がまとめられていて便利です。興味のある方はぜひご覧になってみてください。

*飼料関係法令|独立行政法人農林水産消費安全技術センター
http://www.famic.go.jp/ffis/feed/sub1_kokuji.html

*飼料関係通知|独立行政法人農林水産消費安全技術センター
http://www.famic.go.jp/ffis/feed/sub1_tuti.html

抗菌性飼料添加物と薬剤耐性菌について

ところで、なぜ抗菌性飼料添加物は、ほかの飼料添加物よりも制限が厳しいのでしょうか。
その大きな理由は、薬剤耐性菌を生み出す可能性があるからです。

薬剤耐性菌とは、抗菌薬が効かなくなってしまった菌です。有名な耐性菌としては、しばしばニュースにも取り上げられるMRSA(メチシリンという薬剤に耐性を持つ黄色ブドウ球菌)などがあります。抗菌薬が体内に投与されると、細菌は生き残るためにさまざまな対策を講じて、結果的に耐性を獲得するものが現れます。これが耐性菌が生まれる簡単なメカニズムです(※7)
(ちなみに、事務用品などさまざまな製品に見られる「抗菌仕様」にも、薬剤耐性菌を生み出すリスクがあります)

抗菌性飼料添加物の使用ルールのところで、同一欄に含まれる添加剤を併用してはならないとお伝えしました。その主な理由は、畜産動物やヒトに予期せぬ影響を及ぼす可能性があるからですが、薬剤耐性菌の面から見ても問題があります。

複数の抗菌性飼料添加物を併用すれば、抗菌スペクトルは広くなります。つまりより多くの細菌を殺菌あるいは静菌することができます。
ただ当然ながら、これによって薬剤耐性菌(薬が効かない菌)が生まれる可能性が高まります。薬剤の影響にさらされる細菌が増えるからです。

耐性を持った細菌には薬剤が効かなくなってしまいます。この場合、畜産動物が元気なら自己免疫で淘汰されますが、免疫がうまく機能しないと体内に残ってしまう可能性があります。それが畜産動物との接触や食肉の摂取など、なんらかの経路でヒトに感染する可能性があります。

実際、広く使われたことで薬剤耐性菌が増えてしまい、問題になっているテトラサイクリンと呼ばれる飼料添加物があります。

テトラサイクリン系の飼料添加物は非常に広い抗菌スペクトルを持っているため、長年にわたって重宝されてきました。それゆえに、牛・豚・肉用鶏の大腸菌の耐性率が世界で3番目に高い45パーセントを超えるなど、多くの菌種が高い耐性率を持ってしまうようになったのです(ちなみに昔は60パーセント近くありました)
日本は2020年までに、この割合を33パーセントまで落とすという目標を掲げ、さまざまな対策を講じています(※9)

このように抗菌性飼料添加物には、常に薬剤耐性菌のリスクが潜んでいます。
中には先に紹介した硝酸コリスチンのように、人医療において重要な薬剤もあります。その頻繁な使用は、薬剤耐性菌を生み出す、つまり人医療に悪影響を及ぼしてしまうリスクを高めてしまいます。その重要性を鑑みて、硝酸コリスチンは使用禁止措置が取られ、またバージニアマイシンという飼料添加物も同様の経緯から、近々使用が禁止される方向で話が進められています。

以下は、デンマークでの動物におけるバージニアマイシンの消費量と、ブロイラーおよび豚から採取した腸球菌エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)のうち、ストレプトグラミン系耐性を手に入れた菌(=薬剤耐性菌)の割合をグラフにしたものです。

バージニアマイシン消費量と薬剤耐性菌の割合の関係

エンテロコッカス・フェシウムとは、人間の腸内にいる細菌(腸球菌)のひとつです。病原性は弱いため、健康な人であれば問題となる細菌ではないですが、免疫力が下がると尿路感染症などにかかる恐れがあります(※10)

ストレプトグラミン系とは、抗生物質の種類のひとつです。これは人医療の現場で問題となっているバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)などに効果を持つ薬剤として使用されています。
VREは名前のとおり、エンテロコッカス・フェシウムなどの腸球菌がバンコマイシンという抗生物質に耐性を持ったものです。健康な人なら特に問題となりませんが、すでにほかの病気にかかっているなどで抵抗力が低下した人の場合、肺炎などの感染症にかかり重篤化する危険性があります。

バージニアマイシンは人には使われません(鶏と豚に使用される飼料添加物です)。ですが、ストレプトグラミン系に属する抗菌性飼料添加物のため、過剰な使用は人医療で使用される同系統の抗生物質に対する薬剤耐性菌を生み出すリスクがあります(※11)
それを示したのが、上のグラフです。バージニアマイシンの使用量と、ストレプトグラミン系の耐性を手に入れたエンテロコッカス・フェシウムの割合のあいだには、一定の相関関係が見られます。

飼料添加物と飼料添加剤の違い

最後に、飼料添加物(てんかぶつ)と、よく似た名称の飼料添加剤(てんかざい)の違いについてふれておきます。

飼料添加剤は動物用医薬品とも呼ばれ、その名のとおり動物の病気を治したり、予防したりするための薬剤を指します。そのため品質の低下防止などを用途とする飼料添加物とは、そもそも目的が異なります。種類としては抗生物質、駆虫剤、ホルモン製剤などがあります。

両者の違いを簡単にまとめると、次のようになります。

飼料添加物 飼料添加剤(動物用医薬品)
使用目的 成長促進、病気の予防 病気の治療、予防など
使用期間 長期間の連続使用 原則最大7日と短期間
投与量 少ない 多い
主な法律 飼料安全法 医薬品医療機器等法(旧薬事法)
主な使用規制 飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する省令 動物用医薬品の使用の規制に関する省令
使用形態 工場で飼料に混合したものを使用 獣医師の管理下で使用

いかがでしたか。この記事をご覧いただいて「飼料添加物というものをはじめて知った」という方もいらっしゃるかもしれませんが、少しでも参考になれば幸いです。

農林水産消費安全技術センターのデータによれば、2017年の抗菌性飼料添加物(合成抗菌剤を除く)の総数量は約200トン、抗菌性の動物用医薬品(抗生物質と合成抗菌剤)は2016年に約830トンを記録しました(※12)。この数字は近年あまり変化しておらず、国や畜産関係者は懸命に減らす努力をつづけています。

ここまで何度かお伝えしたように、抗菌性飼料添加物の使用は薬剤耐性菌を生み出し、薬剤によっては人医療に悪影響を及ぼすリスクも秘めています。つまり獣医療だけでなく、人の医療にも不具合が生じないように配慮しなければなりません。極論、すべての抗菌剤に薬剤耐性を獲得されてしまった場合、ヒトの存亡に関わってきます。

このように飼料添加物は牛など畜産動物だけでなく、皆さんにも密接に関係してきます。ぜひ関心を持っていただけたらと思います。

参照

・※1:食品安全総合情報システム – 硫酸コリスチン(薬剤耐性菌)|食品安全委員会
・※1:飼料添加物「硫酸コリスチン」の指定取消しについて|農林水産省
・※2:飼料添加物を定める件|独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)
・※3:飼料添加物一覧|独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)
・※4:飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する省令 – 別表第2|独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)
・※5:飼料等の適正製造規範(GMP)ガイドラインの制定について|独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)
・※6:飼料の安全確保の徹底について(注意喚起)|独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)
・※7:薬剤耐性菌について – どのように耐性化するのか|かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使って薬剤耐性(AMR)対策~
・※8:薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン|厚生労働省
・※8:第12回 薬剤耐性菌に関するワーキンググル―プ – 資料5|食品安全委員会
・※9:各種抗生物質・合成抗菌剤・駆虫剤・抗原虫剤の販売高と販売量|農林水産省 動物医薬品検査所
・※10:腸球菌感染症|MSDマニュアル家庭版
・※11:第2回薬剤耐性菌に関するワーキンググル―プ – 資料3:(案)家畜等に使用するバージニアマイシンに係る薬剤耐性菌に関する食品健康影響評価|食品安全委員会
・※12:特定添加物検定結果|独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)

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